インバウンドプロモーション(インバウンド集客)で成果を出すには、「どのSNSを使うか」「どのインフルエンサーに頼むか」という施策から考えないことが大切です。最初に対象とする国・地域(WHO)を決め、その国の生活者にとっての「買う理由」(WHAT)を設計し、最後に届け方(HOW)を選びます。そのうえで、旅行前の認知から来日中の購買、帰国後の再購入までを1つの導線として設計すると、話題づくりで終わらず売上につながります。この記事では、インバウンドプロモーションの基本、対象国の選び方、価値のローカライズ、インバウンド集客の方法の使い分け、旅行の段階ごとの接点、よくある失敗、進め方の8ステップを解説します。
インバウンドプロモーション(インバウンド集客)とは
インバウンドプロモーションとは、訪日外国人に旅行前から自社の商品や店舗、地域を知ってもらい、来日中の来店や購買、帰国後の再購入や推奨につなげるための取り組みです。訪日外国人を店舗や商品に呼び込むことからインバウンド集客とも呼ばれ、訪日インバウンドマーケティングと呼ぶこともあります。
外国語で広告を出したり、外国語のパンフレットを作ったりすることだけを指すのではありません。誰に向けるか、どんな価値を伝えるか、旅行のどの段階で接点をつくるか、どのチャネルを使うか、どうやって来店や購買につなげるかを、一貫して設計することが求められます。
「インバウンドマーケティング」という言葉には、もう1つの意味があります。役に立つコンテンツで見込み客に見つけてもらう手法を指す使い方で、BtoBのWebマーケティングでよく使われます。この記事では、訪日外国人に向けたインバウンドマーケティングを扱います。
訪日客と旅行消費額は過去最高を更新している
インバウンドプロモーションに取り組む企業が増えているのは、市場そのものが大きくなっているためです。日本政府観光局(JNTO)の推計では、2025年の訪日外客数は4,268万3,600人で、前年比15.8%増と年間の過去最高を更新しました。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月および年間推計値)」
観光庁の推計では、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円、一般客1人当たりの旅行支出は22.9万円でした。
出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析 2025年 年次報告書」
インバウンドプロモーションが国内向けの施策と違う点
インバウンドプロモーションでは、国内向けの施策や広告コピーを外国語に翻訳して出しても、思うような成果は出ません。国・地域によって、次のような前提が大きく異なるためです。
- 使われているSNSや検索エンジン
- 旅行前と旅行中の情報の集め方
- 文化、生活習慣、価値観
- 日本を訪れる目的や、商品を選ぶ理由
日本国内で評価されている商品の仕様やこだわりが、海外の生活者にとっても魅力的に映るとは限りません。対象国の文化や購買行動を理解し、伝え方を現地に合わせて作り直す(ローカライズする)ことが欠かせません。
インバウンドプロモーションは「WHO→WHAT→HOW」の順で考える
インバウンドプロモーションが失敗する原因で多いのは、「どのSNSを使うか」「どのインフルエンサーに頼むか」といった施策から考え始めることです。成果を出すには、次の3つを順番に決めていきます。
- WHO(誰に):対象とする国・地域と、その中のターゲットを決める
- WHAT(何を):商品の強みを、現地の生活者にとっての「選ぶ理由・買う理由」に組み立て直す
- HOW(どう届けるか):WHOとWHATを実現するために、施策とチャネルを選ぶ

訪日外国人をひとまとめにせず、まず国・地域を絞ります。国が決まれば、伝えるべきメッセージが決まり、メッセージが決まれば、使うべきチャネルが決まります。施策は最後に選ぶものです。施策を選んだら、旅行の段階(WHEN)ごとに接点を並べ、施策どうしをつなぎます。
インバウンドプロモーションの対象国(WHO)の選び方
インバウンドプロモーションの対象国は、「訪日客が多そうだから」で決めず、市場性・自社商材との相性・マーケティング特性・実行可能性の4つの軸で比べて決めます。

1. 市場性
統計データから、対象国の市場の大きさを把握します。日本政府観光局(JNTO)の訪日外客数や、観光庁のインバウンド消費動向調査で、国・地域別の訪日客数、旅行消費額、1人当たりの旅行支出を確認します。観光庁の2025年の調査では、旅行消費額が多い国・地域は、中国、台湾、米国、韓国、香港の順でした。
出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析 2025年 年次報告書」
2. 自社商材との相性
自社の商品カテゴリーに、その国・地域の訪日客の需要があるかを見極めます。現地での日本ブランドへの親しみや、旅行中に買ったり体験したりしやすい商材かどうかも判断材料になります。
3. マーケティング特性
その国の生活者が、どのSNSやメディアで情報を集め、口コミをどれだけ重視するかを確認します。訪日客が出発前に頼る情報源は、国・地域によって大きく異なります。観光庁の2025年の調査から、出発前に役に立った旅行情報源の上位2つを抜き出しました。
| 国・地域 | 1位 | 2位 |
|---|---|---|
| 韓国 | SNS(47.1%) | 動画サイト(43.8%) |
| 台湾 | 動画サイト(45.5%) | SNS(42.7%) |
| タイ | 動画サイト(44.9%) | SNS(44.1%) |
| ベトナム | SNS(29.2%) | 日本在住の親族・知人(24.9%) |
| 英国 | 自国の親族・知人(41.5%) | SNS(33.2%) |
出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析 2025年 年次報告書」
4. 実行可能性
マーケティングの予算、現地の市場への知見、言語対応、店舗での受け入れ体制を確認します。魅力的な市場であっても、自社の体制で実行と運用を続けられない場合は、優先度を下げる判断も必要です。
現地の「買う理由」をつくる価値のローカライズ(WHAT)
価値のローカライズとは、商品の特徴を、対象国の生活者にとっての「選ぶ理由・買う理由」に組み立て直すことです。日本語の文章を外国語に置き換える翻訳とは、別の作業です。
たとえば化粧品では、日本では配合成分などの仕様が響く場合でも、対象国によっては、使うとどう変わるかという具体的なメリットのほうが購入の決め手になることがあります。
価値をローカライズするには、現地の生活者のインサイト(本音や、本人も言葉にしていない欲求)を理解する必要があります。次の3点を調べ、商品の強みと重なるところを見つけて、訴求のメッセージを作ります。
- 現地の生活の中に、どのような課題や悩みがあるか
- 日本旅行に、どのような価値や特別な体験を期待しているか
- 同じカテゴリーの商品を選ぶときに、何を最も重視するか
インバウンド集客の主な方法と使い分け(HOW)
インバウンド集客の方法は、SNS運用・SNS広告、インフルエンサー、Webメディア・SEO、OTA、屋外広告・店頭POP、EC・越境ECの6つに大きく分けられ、役割がそれぞれ異なります。対象国と伝える価値が決まったあとで、旅行の段階と目的に合わせて組み合わせます。表の「効く段階」は、旅マエ(出発前)・旅ナカ(滞在中)・旅アト(帰国後)のどこで効くかを示しています。
| 施策 | 主な役割 | 効く段階 |
|---|---|---|
| SNS運用・SNS広告 | 認知の拡大、情報収集のときの接点、買いたい気持ちの形成 | 旅マエ・旅アト |
| インフルエンサー(KOL・KOC) | 第三者の視点での信頼づくり、現地の文脈に沿った価値の伝達 | 旅マエ |
| Webメディア・SEO | 検索する層への接点、SNSで伝えきれない詳しい情報の補足 | 旅マエ |
| OTA(オンライン旅行会社) | 観光施設・体験・宿泊の発見から予約・決済までをつなぐ | 旅マエ・旅ナカ |
| 屋外広告・サイネージ・店頭POP | 滞在中の認知、店舗への誘導、購買の最後の後押し | 旅ナカ |
| EC・越境EC | 帰国後の継続購入、LTV(顧客が生涯にもたらす利益)の向上 | 旅アト |
SNSは国ごとに主流のプラットフォームを選ぶ
SNSは、国・地域によって主に使われるプラットフォームや使われ方が異なります。日本で運用しているアカウントの投稿を翻訳するのではなく、対象国の生活者が使うSNSを選び、その国向けにコンテンツを作ります。
インフルエンサーはフォロワー数だけで選ばない
KOL(Key Opinion Leader)は影響力の大きい発信者、KOC(Key Opinion Consumer)は生活者に近い立場で商品を紹介する発信者を指します。フォロワー数だけで選ばず、ブランドとの親和性、投稿の質、エンゲージメント、現地の生活者に響く文脈で発信できるかを見て起用します。
OTAはコト消費の事業者に向いている
OTAは、観光施設や体験、宿泊などのコト消費を提供する事業者に向いたチャネルです。物販の企業すべてに必要なわけではありません。
旅マエ・旅ナカ・旅アトで接点を設計する(WHEN)
インバウンドプロモーションでは、旅行の段階ごとに、訪日客との接点をつくります。旅マエ(旅前)は旅行を計画する前から出発までの期間、旅ナカ(旅中)は日本に滞在している期間、旅アト(旅後)は帰国したあとの期間を指します。旅マエで認知をつくり、旅ナカで購買を実現し、旅アトでリピートにつなげます。

旅マエ:認知を得て、行きたい・買いたい気持ちをつくる
旅マエの訪日客は、SNSや動画、検索エンジン、Webメディアで、訪問先や買いたい物の情報を集めています。観光庁の2025年の調査では、出発前に役に立った旅行情報源の上位は「SNS」43.3%、「動画サイト」39.6%、「個人のブログ」23.9%でした。この段階の目的は、自社を知ってもらうことと、「行きたい」「買いたい」という気持ちをつくることです。
出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析 2025年 年次報告書」
旅ナカ:来店と購買を後押しする
旅ナカの訪日客は、いる場所の近くの観光地や飲食店、店舗をその場で探しています。地図サービスへの店舗情報の登録、取扱店舗の明記、店頭での分かりやすい案内や特典が、来店と購買の後押しになります。
旅アト:口コミと再購入につなげる
旅アトの訪日客は、旅行の体験や買った物をSNSで共有したり、気に入った商品を使い続けたいと考えたりします。SNSで継続的にコミュニケーションをとり、帰国後も買えるECや越境ECへの導線を整えることで、ファン化とリピート購入につなげます。
インバウンド集客を購買につなげる3つの要素
インバウンド集客では、SNSで話題になったり、広告の表示回数を稼いだりするだけでは、売上につながりません。成果を出すには、次の3つの要素をそろえて設計します。

- 有効リーチ:自社の商品を買う可能性がある層に、情報が届いている状態
- 購買意向の形成:現地の価値観に合わせた訴求で、「欲しい」「行ってみたい」と思われている状態
- 購買の実現性:どこで買えるか、迷わず店舗に行けるか、スムーズに支払えるかなど、行動に移せる状態
旅マエで有効リーチと購買意向をつくり、旅ナカで購買の実現性を高めます。必要に応じて旅アトの再購入までつなげ、一貫した導線にします。
インバウンドプロモーション・インバウンド集客でよくある5つの失敗
インバウンドプロモーションやインバウンド集客に取り組む企業が陥りやすい失敗と、その対策です。
1. 対象国を絞らずに始める
「訪日客全体」に向けて同じ施策を行うと、どの国の生活者にも響かない、薄いメッセージになりがちです。市場性や自社との相性から、優先する国・地域を決めてから始めます。
2. 国内向けのメッセージを翻訳して使う
日本での打ち出し方を翻訳するだけでは、現地の生活者にとっての「選ぶ理由」になりにくくなります。現地の課題や価値観を調べ、商品の魅力を現地の視点で組み立て直します。
3. SNSやインフルエンサーなどの施策から考える
手段から考えると、軸の定まらない単発の施策になりがちです。WHO(誰に)、WHAT(何を)、HOW(どう届けるか)の順で計画します。
4. 旅マエの認知だけで終わり、旅ナカの購買導線がない
SNSで知ってもらえても、来日したときにどこで買えるか分からなければ、購買にはつながりません。地図サービスへの登録、取扱店舗の明記、店頭での見つけやすさなど、旅ナカで買える状態を整えます。
5. 表示回数などの認知の指標だけで判断する
露出の数字だけを追うと、売上への貢献が見えにくくなります。店舗への来店数、クーポンの利用数、ECの売上など、事業の目的に沿ったKPI(重要業績評価指標)を設定します。
インバウンドプロモーションを進める8ステップ
インバウンドプロモーションは、次の8つのステップで進めます。
- 目的を決める:来店数の増加、認知の獲得、帰国後のEC売上など、施策のゴールを明確にする
- 対象国を選ぶ:データと自社商材との相性から、優先する国・地域を決める
- 現地の生活者を理解する(WHO):対象国の生活者の悩みや、情報の集め方を把握する
- 買う理由を設計する(WHAT):自社の強みを、現地の生活者の購入動機に組み立て直す
- 施策を選ぶ(HOW):目的と伝える価値に合わせて、必要な施策を選ぶ
- 旅行の段階ごとの接点を設計する(WHEN):選んだ施策を旅マエ・旅ナカ・旅アトに配置し、どこで接点をつくるかを整理する
- KPIを決める:来店や購買など、目的に沿った指標を設定する
- 実行し、検証して改善する:施策を実行し、反応に応じてメッセージや施策を見直し続ける
予算が限られている場合は、広く薄く展開せず、自社と相性の良い1つの国に絞って、旅マエの発信と旅ナカの購買導線という、目的に直結する接点から検証します。
インバウンドプロモーションの支援会社を探している方へ
自社だけで現地の生活者のインサイトをつかみ、一貫した戦略を立てるのが難しい場合は、専門の支援会社を活用するのも選択肢です。支援会社の比べ方と、費用を左右する条件は次の記事で解説しています。
インバウンドプロモーション支援会社の選び方|支援内容と費用の考え方インバウンドプロモーション支援会社は、対象国の現地体制・国ごとのインサイト調査・来日後の購買までの導線設計など5つの軸で比較します。訪日客が出発前に頼る情報源、任せられる業務、費用を左右する条件もあわせて解説します。
FinTは、累計460社以上のマーケティング支援と、ベトナム・タイを中心とした東南アジア、台湾・香港などの東アジアでの支援で培ってきた知見をもとに、訪日インバウンドのプロモーションを戦略設計から実行・効果測定まで一気通貫で支援しています。現地の生活者のインサイト調査から、WHO・WHAT・HOWに沿った戦略と企画の設計、各国でのSNS運用、インフルエンサーの起用まで対応します。どの国から、何から始めるべきかが決まっていない段階でも、お気軽にご相談ください。